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原稿を発注する理由

ネット流行語大賞2009の銀賞は「どうしてこうなった」だが、しみじみとこう思っている人はいるだろうなあ。

さて、自分は編集者なので一連の唐沢氏の件を編集者の立場から「どうしてこうなった」と考えてみたい。但しあくまでもこれは個人の意見だから、他の編集者にも当てはまるわけではない。自分は自分なりの立場から過去の反省をこめる意味でも問題発生の過程を報告しようと思っているだけだ。

まず気のせいかもしれないが、最近「編集者は何やってたんだ」という意見がなんとなく増えてきたように思える。上がって来た原稿に最終的にオーケーを出すのは編集者なんだから、何度も書いてるが責任は重大だ。これについては唐沢氏も「オレばかり責めるな」と少しは言ってもいいと思う。ただ逆に原稿がよかった場合も、どんなに編集者のサジェスチョンがあったとしても編集者はあくまで黒子で、書き手が「素晴らしい」と賞賛されるわけだから、悪かった場合も比重としては、書き手の方が多く責められるのは仕方ないと思うけど。

話がそれた。「どうしてこうなった」かだ。まずよく話題になっている「なぜ編集者は唐沢氏に仕事を出すのだ」という質問に対して。雑誌の場合だが、唐沢氏は編集者からすると非常に頼みやすいライターだったと言える。それはなぜか。

まず基本的に仕事を断らない。知名度のわりにはけっこうスケジュールがタイトでも書いてくれた。どうしても本をある程度の数出しているライターだと、ライターというよりは著者という呼び方になり、編集部内での扱いもランクが上がってくる。小さく「Text by Hisanori Nukada」なんてよりも、もう少し大きい字で「文・唐沢俊一+プロフィール200字」なんてのが格が上だ。そうなると「このスケジュールじゃ頼み辛いな」ということになる。でも雑誌はいつも時間はないから「ちょっとここは署名原稿が欲しいな」という時に仕事を断らない唐沢氏は実に都合がよいのだ。実際、唐沢氏と同じくらいの知名度の作家の場合、締め切りがタイトだと断られることも多々ある。

第二に、ジャンルが限定されない。オールマイティに何でも書いてくれた。

第三にギャラのことで文句を言わない。自分は原稿料のことで唐沢氏から文句を言われたことは一度もなかった。大手ではない出版社だったので、高い原稿料は払えなかったにも関わらず。

第四に、話が早い。電話で「あーそういう内容ね、はいはい」とすぐ済む。

主に以上のような理由から「困った時の唐沢さん」という感じで原稿を頼んでいたことが多かった。あとは連載のコラムもあったけれど、これはもっと簡単で締め切りを毎回メールするだけ。編集者は何かと雑用が多くよく分からない忙しさで、こういう言わば「手のかからない書き手」というのはとても重宝していたのだ。しかし振り返ってみると、実に自分はラクをしようとしていたんだなと感じる。その根底にあるのは「知らない人だとなにかとめんどくさいから頼みやすい人に頼んじゃえ」という安易な考え方だったのだ。それを「時間がないから」という言い訳で肯定していたのだった。

次回は問題の核心、原稿がアップした時の編集部内でのチェックシステムについて書いてみたいと思います。と言っても凄い重大な秘密があるわけではないが。

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